外注の相見積もりは「一番安い会社を探す手続き」だと思われがちですが、実際に効くのは3社の見積書を同じ土俵に並べ直す作業のほうです。提示額が最安だった会社が、条件を揃えた瞬間に最高額へ入れ替わることは珍しくありません。
この記事では、比較できる相見積もりにするための条件の揃え方、金額を横並びにする正規化の手順、何社に依頼すべきかの損益分岐、そして発注者側が踏んではいけない法的ラインと断り方のメール例文までをまとめます。
外注の相見積もりが「比較不能」になる3つの原因
相見積もりを取ったのに決められない、という状況はほぼ次の3つが原因です。
1. 「一式」表記で内訳が消えている
「Webサイト制作一式 800,000円」のような見積書は、何時間かけて誰が作業するのかがわかりません。金額の妥当性を判断できないだけでなく、後から「その作業は含まれていません」と言われる余地が残ります。
2. 前提条件と除外条件が会社ごとに違う
原稿執筆、写真素材の手配、修正回数、公開後の保守——これらを含むか含まないかは会社によって異なります。含まない会社のほうが総額は当然安く見えます。
3. 見積の単位が揃っていない
「1ページあたり」の1ページが、トップページと下層ページで同じ重さなのか。「1本あたり」の1本に、企画・構成が含まれるのか。単位の定義が違えば、単価の比較は成立しません。
この3つは、いずれも見積依頼の時点で発注者が指定していなかったことが原因です。見積書の読み方より先に、依頼書の書き方を直すほうが早く解決します。
条件を揃える:見積依頼書に必ず書く10項目
複数社に同じ内容で依頼するために、次の10項目を1枚のドキュメントにまとめて配布します。口頭やチャットでの説明だけにすると、会社ごとに受け取り方がずれます。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 1. 目的と背景 | 何のために発注するのか。達成したい状態 |
| 2. 成果物の定義と数量 | 「10ページ」「動画3本(各60秒)」のように単位を明記 |
| 3. 含める工程/含めない工程 | 企画・設計・制作・テスト・公開作業のどこまでか |
| 4. こちらが支給するもの | 原稿、素材、アカウント、既存データと、その提供時期 |
| 5. 修正回数と修正の定義 | 「何を1回と数えるか」まで書く |
| 6. 品質基準と検収条件 | 合格・不合格を判定する具体的な条件 |
| 7. 希望納期とマイルストーン | 中間確認のタイミングも含める |
| 8. 権利の帰属 | 著作権の扱い、二次利用の範囲、実績公開の可否 |
| 9. 見積の様式 | 工程ごとに工数(時間または人日)と単価を分けて記載してもらう。「一式」は不可と明記 |
| 10. 回答期限と質問受付期限 | 質問は全社へ回答を共有する旨も添える |
特に効くのは9番です。工数と単価を分けてもらえれば、次の正規化がそのまま計算でできるようになります。詳しい依頼書の作り方は外注見積依頼で失敗しない!提案書作成から価格交渉までのハンドブックもあわせて確認してください。
金額を横並びにする正規化の手順
条件を揃えて依頼しても、返ってくる見積書の形はばらつきます。そこで、いちばん条件が広い見積を基準にして、他社に不足分を足し戻すという手順を取ります。
手順1:全社の見積から「含む/含まない」を一覧化する
Webサイト制作(10ページ)を3社に相見積もりした例で見ていきます。
| 項目 | A社 | B社 | C社 |
|---|---|---|---|
| 提示総額(税抜) | 80万円 | 110万円 | 95万円 |
| 見積の書き方 | 「制作一式」 | 工程別・工数あり | 工程別・工数なし |
| 原稿執筆 | 含まない | 含む | 含まない |
| 写真・素材の手配 | 含まない | 含む | 含まない |
| 修正回数 | 2回まで(超過1回3万円) | 3回まで | 制限なし |
| 公開後1年の保守 | 含まない(月1.5万円) | 含む | 含まない(月2万円) |
手順2:いちばん広い条件に揃えて不足分を足す
ここではB社の「原稿込み・素材込み・修正3回・保守1年込み」を基準条件とします。原稿執筆を別途外注した場合の費用を1ページ1.2万円(10ページで12万円)、素材購入費を5万円と仮定して足し戻します。
| A社 | B社 | C社 | |
|---|---|---|---|
| 提示総額 | 80万円 | 110万円 | 95万円 |
| +原稿執筆 | 12万円 | 0 | 12万円 |
| +素材手配 | 5万円 | 0 | 5万円 |
| +修正1回分 | 3万円 | 0 | 0 |
| +保守12か月 | 18万円 | 0 | 24万円 |
| 正規化後の総額 | 118万円 | 110万円 | 136万円 |
提示額では A(80万)< C(95万)< B(110万)だった順位が、正規化後は B(110万)< A(118万)< C(136万) と完全に入れ替わりました。最安に見えたA社は2番手に、中間だったC社は最高額になります。
手順3:時間あたり単価で検算する
総額だけでは、どこに差がついたのかがわかりません。工数がわかる会社については、時間単価を出して確認します。
- B社:110万円 ÷ 220時間 = 5,000円/時
- A社:ヒアリングで想定100時間と回答 → 80万円 ÷ 100時間 = 8,000円/時
総額が最安だったA社は、時間あたりでは1.6倍高いことになります。安いのではなく、やる範囲が狭かっただけです。この検算をすると、値引き交渉すべき相手が「総額が高い会社」ではなく「単価が高い会社」に変わります。
工数を書いていない会社には、正規化の前に「想定工数を教えてください」と一度だけ質問を投げます。答えられない会社は、見積の根拠を持っていない可能性があります。見積書の内訳の読み方は見積もり金額の内訳の見方で詳しく解説しています。
何社に相見積もりを出すべきか:追加1社の損益分岐
「3社」が目安としてよく挙げられますが、根拠を持って判断するなら1社増やすコストと、それによって下がる見込み額を比べるのが確実です。
1社増やすと発注者側にかかる工数
| 作業 | 目安時間 |
|---|---|
| 質疑応答への対応 | 2.0時間 |
| 見積書の読み込みと正規化 | 1.5時間 |
| 打ち合わせ(60分+準備30分) | 1.5時間 |
| 社内共有・比較表の更新 | 1.0時間 |
| 合計 | 6.0時間 |
担当者の時間あたり人件費を、年収600万円・年間労働1,800時間・法定福利費などで1.3倍として計算します。
600万円 × 1.3 ÷ 1,800時間 = 約4,300円/時
6.0時間 × 4,300円 = 約2.6万円/社
判断ルール
つまり4社目・5社目を追加する価値があるのは、それによって最安値がさらに2.6万円以上下がると見込めるときだけです。
- 100万円規模の案件:各社の見積が±10%(±10万円)ばらつくなら、1社追加する価値は十分にある
- 20万円規模の案件:±10%でも±2万円。追加コスト2.6万円を下回るため、3社で打ち切るほうが得
- 金額より相性で決まる案件(長期の運用代行など):社数を増やすより、候補2〜3社と面談時間を長く取るほうが効く
小額案件で5社・6社と声をかけるのは、自社の工数を捨てているだけでなく、相手の見積作成コストも消費しています。次回声をかけたときの反応が鈍くなる点でも損です。
価格以外の比較軸を点数にする
正規化した金額が出そろっても、それだけで決めると「安いが進行が不安な会社」を選んでしまいます。金額と非金額の要素を1枚の表で扱うために、重みをつけたスコアで並べます。
| 評価軸 | 重み | 見るところ |
|---|---|---|
| 正規化後の金額 | 30% | 条件を揃えたあとの総額。提示額ではない |
| 実績の近さ | 20% | 業種・規模・目的が自社に近い事例があるか |
| 体制と担当者 | 20% | 誰が実作業をするか。再委託の有無と範囲 |
| 提案の具体性 | 15% | こちらの前提の誤りを指摘してきたか |
| レスポンスと進行管理 | 15% | 見積段階の返信速度、質問への回答精度 |
重みは案件によって変えます。予算が厳しい案件なら金額を50%に、長期運用が前提なら体制を30%に。重みは見積を受け取る前に決めておくことが肝心です。見積を見てから重みを決めると、選びたい会社に有利な配点を無意識に作ってしまいます。
「提案の具体性」で差がつきやすいのは、こちらの依頼書の穴を指摘してきたかどうかです。書いたとおりの見積をそのまま返してくる会社より、「この条件だとこの工程で手戻りが出ます」と前提を修正してくる会社のほうが、着手後のトラブルが少なくなります。
依頼から決定までの実務手順
- 候補を洗い出す(1〜3日):3〜5社をリストアップし、実績ページで案件の近さを確認する
- 見積依頼書を作る(半日):前述の10項目を1枚にまとめる。全社に同じものを送る
- 依頼を送る(1日):相見積もりであること、回答期限、質問受付期限を明記する
- 質問に回答する(3〜5日):1社から来た質問への回答は、全社に共有する。これをしないと条件が揃わない
- 見積を受け取り正規化する(1〜2日):含む/含まないを一覧化し、不足分を足し戻す
- 面談する(3〜5日):実作業の担当者に同席してもらう。営業担当だけの面談では体制が判断できない
- スコアで並べて決定する(1日):事前に決めた重みで採点する
- 決定連絡と発注書(即日):選定した会社へは発注内容を明示した書面を出す。選ばなかった会社へは同日中に連絡する
全体で2〜3週間が目安です。「来週までに見積をください」と急がせると、リスクを織り込んだ高めの金額か、後から追加請求される安い金額のどちらかが返ってきます。
発注者が踏んではいけない法的ライン
相見積もりそのものは何ら問題のない商慣行ですが、取った見積の使い方には法律上の制約があります。
取適法(旧・下請法)の対象になるか確認する
従来の下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、令和7年法律第41号による改正で名称が変わり、令和8年1月1日から施行されています。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、略称は「中小受託取引適正化法」または「取適法」です。
対象になるかどうかは、委託の種類と、発注者・受注者の規模で決まります。改正で従業員数による基準が加わった点が実務上は重要です(第2条第8項・第9項)。
| 委託の種類 | 資本金基準(発注者→受注者) | 従業員数基準(発注者→受注者) |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託など | 3億円超 → 3億円以下 1,000万円超3億円以下 → 1,000万円以下 |
301人以上 → 300人以下 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託 | 5,000万円超 → 5,000万円以下 1,000万円超5,000万円以下 → 1,000万円以下 |
101人以上 → 100人以下 |
資本金1,000万円の会社であっても、従業員が101人以上いれば、デザイン制作やシステム開発、各種代行業務の発注で「委託事業者」に該当しうる、ということです。「うちは資本金が小さいから関係ない」という判断は成り立たなくなりました。
相見積もりで問題になりやすい3つの条文
- 買いたたきの禁止(第5条第1項第5号):同種または類似の給付に対し「通常支払われる対価に比し著しく低い」代金額を不当に定めることを禁じています。他社の最安値を持ち出して、一方的に相場から大きく外れた金額へ引き下げさせる行為が該当しえます。
- 協議に応じない一方的な決定の禁止(第5条第2項第4号):費用の変動などの事情が生じ、受注者から代金額の協議を求められたにもかかわらず、協議に応じない、必要な説明や情報提供をしない、一方的に代金額を決定する——これらによって受注者の利益を不当に害してはならない、とされています。「他社はこの金額なので」で会話を打ち切る進め方は、この規定と正面からぶつかります。
- 発注内容の明示義務(第4条第1項):委託をした場合は直ちに、給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法などを、書面または電磁的方法で明示しなければなりません。相見積もりで発注先を決めたら、見積書のやり取りだけで作業を始めさせず、その場で発注書を出す必要があります。
あわせて、支払期日は受領日から起算して60日以内、かつできる限り短い期間内に定めなければならないと規定されています(第3条第1項)。相見積もりの段階で「支払サイト」を条件として明示しておくと、後から揉めません。
なお、取適法の規模基準に当てはまらない場合でも、独占禁止法の優越的地位の濫用や、発注先が個人の場合の別の規制が及ぶことがあります。条文と最新の運用は公正取引委員会のサイトで確認してください。
相見積もりの断り方とメール例文
選ばなかった会社への連絡は、必ず出します。返事をしないまま終える発注者は記憶に残り、次に声をかけたときに優先度を下げられます。
例文1:他社に決定した場合(価格以外の理由)
件名:お見積りの件(〇〇サイト制作)
株式会社〇〇
〇〇様お世話になっております。株式会社△△の□□です。
このたびは、〇〇サイト制作についてお見積りとご提案をいただき、誠にありがとうございました。
社内で慎重に検討いたしました結果、今回は公開後の運用体制を含めた進め方の点から、他社へ依頼することとなりました。ご期待に沿えず申し訳ございません。
いただいたご提案は、構成の考え方が明快で大変参考になりました。今後、別の案件でご相談させていただく機会があるかと存じますので、その際はあらためてよろしくお願いいたします。
末筆ながら、貴社のますますのご発展をお祈り申し上げます。
例文2:発注自体を見送る場合
件名:お見積りの件(〇〇制作)
株式会社〇〇
〇〇様お世話になっております。株式会社△△の□□です。
先日はお見積りをいただき、ありがとうございました。
社内で検討を重ねましたが、今期の予算配分の見直しにより、本件は着手を見送ることとなりました。お忙しいなかご対応いただいたにもかかわらず、このようなご連絡となり申し訳ございません。
時期をあらためて進める可能性がございますので、その際はまずご相談させていただければ幸いです。引き続きよろしくお願いいたします。
例文3:予算が合わなかった場合
件名:お見積りの件(〇〇動画制作)
株式会社〇〇
〇〇様お世話になっております。株式会社△△の□□です。
このたびは詳細なお見積りをいただき、ありがとうございました。
ご提案内容そのものは大変魅力的でしたが、今回当方で確保できる予算の枠に収まらず、誠に恐縮ながら今回は見送らせていただくこととなりました。
今後、規模を縮小した形での制作や、別のご相談をさせていただくこともあるかと存じます。その際はあらためてご連絡いたしますので、よろしくお願いいたします。
断るときに避けたい伝え方
| 避けたい伝え方 | 理由 |
|---|---|
| 「他社さんは〇〇万円でした」と金額を伝えて再提示を促す | 買いたたきの引き金になりやすく、相見積もりの当て馬に使ったと受け取られる |
| 連絡せずフェードアウトする | 次回以降、見積依頼への対応順位が下がる |
| 「今回はご縁がなく」だけで終える | 理由がないと改善の材料にならず、関係も続かない |
| 提案書の中身だけもらって他社に流用する | 提案内容には著作権が生じうる。トラブルの原因になる |
よくある質問
相見積もりであることは伝えるべきですか
伝えます。伝えないほうが有利な金額が出るわけではありませんし、伝えないと「条件を揃えた見積を出してほしい」という依頼の意図も伝わりません。他社名まで明かす必要はなく、「複数社に同条件で依頼しています」で十分です。
見積は無料ですか
概算見積は無料の会社が多い一方、要件定義や現地調査を伴う詳細見積は有償のことがあります。依頼前に「この段階の見積は無償か」を確認しておくと、後から請求されて驚くことがありません。
相見積もりは失礼にあたりますか
取引先を比較して選ぶことは通常の商行為であり、失礼にはあたりません。失礼になるのは、発注する意思がないのに見積を取る、依頼条件を会社ごとに変える、断りの連絡を入れない、といった進め方のほうです。
断りは電話とメールのどちらがよいですか
記録が残るメールを基本にします。継続的な取引先や、先方が多くの時間を割いて提案してくれた場合は、電話で伝えたうえでメールを送ると丁寧です。
相見積もりを取ったあと、価格交渉はしてよいですか
条件を追加・削除したうえでの再見積依頼は問題ありません。避けるべきは、他社の金額だけを根拠に一方的な引き下げを求めることです。前述のとおり、規模要件を満たす取引では法的な問題になりえます。
まとめ
- 相見積もりの本体は価格比較ではなく、条件を揃える作業にある
- 見積依頼書に10項目を明記し、工程ごとの工数と単価を必ず出してもらう
- いちばん条件の広い見積を基準に不足分を足し戻すと、提示額の順位はしばしば逆転する
- 時間単価で検算すると、値引き交渉すべき相手が変わる
- 1社追加のコストは約2.6万円。案件規模とばらつき幅で社数を決める
- 他社価格を根拠にした一方的な値下げ要求は、取適法の買いたたき・一方的決定にあたりうる
- 発注先を決めたら、直ちに書面または電磁的方法で発注内容を明示する
発注後の進め方や外注先の管理については、外注管理とは|進捗・品質・納期・外注先選定まで全体像を完全解説もあわせてご覧ください。

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